PRODUCT

Track Talk

2014-08-01
(豪「AV Magazine」誌記事の翻訳転載)

最も洗練されたコミュニケーション・システムのひとつをあまねく用いて 2010 年の F1 シーズンは たけなわである。Andy Ciddor が無謀にも '86 年製二代目 Ford Laser をピット・レーンに乗り付けて報告する。

文と写真:Andy Ciddor

RIEDEL がオーストラリア F1 グランプリでの仕事ぶりを見るようにと招いてくれたとき,AV 関連のフリーランス・ライターあまたあれど適任なのはこの私を措いて他にいなかっただろう。何しろ私はモーター・スポーツに関してまったく経験がないというわけではないのだから。私はオーストラリア・グランプリに行ったことがある──60 年代初頭に父が兄と私をアルバート・パークのコース横の草地に連れて行ってくれたときに非常にうるさい車がうなるように通り過ぎるのを見たことがあるのだ。走り抜けていった残像のひとつがジャック・ブラバムであり,もうひとつがスターリング・モスだと教えてもらったりした。とはいうものの,このモーター・スポーツとの最初の関わり合いは私の電気への興味を奪ってオイル塗れの車好きに変えることには完全に失敗したのだった。そんなことで,このグランプリを訪問したときには私はまだ 26 年落ちの Ford Laser[マツダのファミリアに相当]に乗っていたのだ(その後さすがに整備工場の苛ついたメカニックに助言されてついに手放した)


F1-1.png
画像提供:Australian Grand Prix Corp

さて,AV チームの皆がテカテカ光る(そして尋常無くウルサイ)F1 カーと世界最高のレーシング・ドライバーたちに気を奪われていたであろうときに,私の興味は RIEDEL が F1 レースにいかに深く関わるようになったかの方に動かされていた。この業界にいる大半の人と同様に,有線通信と無線通信の両方や,北京オリンピックや近年のローマ法王の訪問のような大がかりなイベントのトークバック・システムに RIEDEL が係わっていることに私も気付かないはずがないし,コミュニケーションに RIEDEL 機材を使うことが増えていることを,そしてさらに最近では屋外中継の音声およびビデオ信号の伝送にも使用が増加していることにも気付いている。私が予想だにしなかったのは,F1 モーター・レーシングという旅のサーカス一座のためのデータおよびコミュニケーション・インフラストラクチャーのビジネスへの同社の関わりの強さだ。

あらゆるデータ転送は IP パケットのストリームとなることを運命付けられていることを RIEDEL は早くから受け容れており(誰もがそうせざるを得ない)──同社は実際に IP データグラム伝送会社となっている──その見地から自社の全製品を作ることを推進している。この決断をしてしまえば,設置・管理するインフラは VoIP や HTTPS,SAMBA,FTP,VPN,PPPoE をトークバックや音声,SDI,デジタル・トランク無線のように簡単に扱うことができる。RIEDEL の Formula One Management(FOM)との関係は年を追って深まっており,同社のデータ管理・伝送・分配はこのイベント全体が基盤とするインフラになっている。

COMMS:TEAM EFFORT
最も基本的なレベルで,国際自動車連盟(FIA)のレース・コントローラーたちは各参加チームとそのマネージャーとの直接的なコミュニケーションを優先的に取らなくてはならない。各チームがその内部でのコミュニケーションのために選んだテクノロジーやサプライヤーとは無関係に,FIA の RIEDEL『Artist S』リングは各チームのピットウォールのコントロール・センターにノードとパネルを 1 個ずつ配しており,そこからチーム自身のコミュニケーション・システムへとリンクが行われる。このシステムはテレビ放送やレースの記録に使うためにドライバーとの音声リンクも捉えて録音する。レース放送に使われる「Team Radio」フィードもこの『Artist』ネットワークによって伝送される。このリングは FIA のコース係員全員や,FIA サービス・プロバイダー,Mercedes-AMG メディカル・カーや Mercedes-AMG セーフティ・カー内のベルント・マイレンダーへのデジタル音声リンクを含む。追加バックアップのアナログ無線システムも FIA のレース係員やセーフティ・カーやメディカル・カーにつながっている。

各参加チームはピットやガレージやピットウォールの管制センター,あるいはトラック周辺,ガレージ内にあるときのレース・カー,オフィスや宿泊施設としての役割を果たす様々なトレーラーハウス(サーカスとの類似がはっきりしてくる)にいるチーム・メンバーとリンクするための,そして近年増加しつつあるチームのファクトリーにあるコミュニケーション・パネルとリンクするための,独立したコミュニケーション・システムを備えている。この大半はアナログおよび TETRA(TErrestrial Trunked RAdio)ハンドヘルドへのフルデュプレクス・インターフェイスを含んでいる。コース上のレース・カーへのリンクはカスタマイズされた TETRA ターミナルを介して行われるが,これは高騒音環境用のドライバー・マイク,そして有線通信から無線通信への切替とボリューム・コントロールとノイズ・キャンセリングおよびボリューム適合処理を組み込んだ音声制御ボックスを内蔵している。2010 年の F1 シーズンでは RIEDEL は 10 チーム中の 8 チームにこのようなサービスを提供している。

現在の F1 グランプリ・ツアーでの RIEDEL 担当通信用コンポーネントの内訳は,『Artist S』ノードが 17 台,『Artist 32/64/128』ノードが 26 台,約 210 個のインターカム・パネル,7 台のデジタル・パーティーライン・システム(それぞれが約 20 個のベルトパックと 35 個の無線インターフェイスを備える)となっており,この他に TETRA ベースのステーションが 1 台,約 800 個のハンドヘルド・ターミナルに信号を送るいくつかのリピーター,数台のハンドヘルド・ユニットを備えた 2 台のアナログ・リピーター・ステーション,約 400 個のカスタマイズ済みの高騒音環境向け RIEDEL『Max』ヘッドセットも含まれる。


F1-2.png
ピットウォールのコントロール・センター:各チームはレース中にエンジニアたちがマシンの動作のテレメトリー,レースの状態や戦略をモニターしたり,ドライバーやピットのメカニックやガレージとファクトリーと会話するためのカスタムメイドの設備を持っている.

BROADCAST
リアルタイムの信号伝送や信号ルーティング,SD および HD 放送ビデオのフォーマット変換,マルチチャンネル音声,コミュケーション,データ・フィードを光ファイバーの 1 ペアに統合する RIEDEL の『MediorNet』システムは F1 イベント用の放送システムの不可欠な部分である。FOM の「World Feed」はこの惑星のほぼどんな隅にも届けられるテレビ放送のもとであり,F1 レースを世界で最も観られているスポーツ・イベントのひとつ(匹敵するのはワールドカップ・サッカーとオリンピックだけ)としている大本はこれなのだ。『MediorNet』は厳重警備の FIA のレース管制エリアと,これまた厳重に保護された FOM の放送エリアとの間のリンクを提供している。


F1-3.png
車が不正改造されないようにFIA職員によるモニタリングに使われるIP監視カメラのひとつ


F1-4.png
アンテナ・アレーへの RF 分配


F1-5.png
メインの光ファイバー・パッチ・フィールド.サーキット上の各地点間を自在にジャンプする2個のうちのひとつ

DATA LINKS
RIEDEL が F1 イベントのデータ用インフラにいかに深く関与しているかは簡単に理解できよう。RIEDEL は,コミュニケーションやレース管理カメラおよび放送信号用にコース上の全ポイント間に 10 キロメートルのファイバー・リングを巡らし,様々なチームのオフィスやファクトリーへのリンクバックのためにホスト国の国内テレコミュニケーション・ネットワークへの接続をすでに提供している。そのため,このイベントにトータルなデータおよびテレコミュニケーション・ネットワークを提供するのも,同じことを極めて大規模に行うだけのことだ。

各チーム用のもの以外にも,RIEDEL は FIA のドキュメント・サービスやマーシャリング・サービスやウェザー・サービスのための情報を伝送するイベント・データ・ネットワークを提供する。これは FIA 職員によるチェック後の各レース・カーの保管が義務づけられている施錠済み「パルクフェルメ」をモニターする不正防止用セキュリティ・カメラからのフィードの分配およびセキュリティ用の記録を含む。

このイベント・ネットワークは 155 Mbps の MPLS リンクを介してローカルなテレコミュニケーション・ネットワークにつながる。これは,各種資料や技術データやサポートしているチームのファクトリーとのテレメトリーおよびコミュニケーション・リンクを含む様々なデータを伝送でき,ドイツの放送局 RTL 用の TV-over-IP フィードも伝送する。

LOGISTICS:KEEP THE MOTOR RUNNING
F1 マネージャー Christian Bryll の下,10 人の RIEDEL 技術者のチームがシーズンを通じて F1 ロードショーについて廻り,FIA と FOM に対して契約したサービス以外に,サポートしているチームへの 24 時間無休のサービスを提供している。各イベントにおいて 50〜60 の周波数を割り当てる必要があるので,RIEDEL は本社オフィスに F1 用の周波数の管理と割り当てだけを仕事とする人をひとり雇っている。ロードショーよりも前に仕事をするネットワーク技術者も 2 人いる。次のコースにファイバーを敷設してテストするコントラクターを監督し,10 日前にすべてを配置して,現地に押しかけてくる何千ものコンテナーやトラックやトレーラーハウスの到着を待ちかまえ,到着したら 24 時間以内に残りの作業を完了させるのである。サーカス一行の到着前に安定したネットワーク・インフラを設置・設定するのに十分な時間が取れるように,ファイバーとパッチフィールドとメディア・コンバーターとルーターの同じセットも先遣される。

オーストラリア F1 グランプリ見学会に参加して私のモーター・レースに対する見解は変わった。私がラリー競技に参加している兄のような車好きになるのには多分もう遅すぎるだろうが,少なくともモーター・レースを成立させている技術の複雑さを高く評価するようになったのだ。


F1-6.png
ガルウィングの Mercedes-AMG セーフティー・カーは FIA レース・コントロールとの TETRA およびアナログ無線リンクを含むコミュニケーション機材を満載する。ゴルフ・クラブやピクニック・バスケット用のスペースはない。

top_arrow.png
PAGE TOP