リスニング・ポジションにおけるモニタリング・システムのターゲット・レスポンスとはどんなものでしょうか?
まず、モニタリング・システムの役割は、オリジナルの入力信号に何も加えることなく、また何も引くことなく、音を再生することにあります。このような定義の理由は、人間の聴覚には聴覚マスキング* と呼ばれる現象があり、現代のレコーディング・システムは平坦な電気的周波数特性を持っているからです。そのため、ハードドライブやテープ・マシンに録音されたものを正確にモニターするには、モニタリング・システムもリスニング・ポジションにおいて平坦なレスポンスを持っている必要があります。
次に、よく話題になる「最終的なミックスの解釈」の問題ですが、家庭のオーディオ・システムやカー・オーディオ・システムは一般的に時間をかけて改良されており、より良い、つまり、より平坦な周波数特性を持つようになっている点には誰もが気がついていると思います。一般的に言えば、良いミックスはどんなシステムでも良い音がするはずです。全体的には様々な再生システムは実際に平坦な周波数特性を目指しています。
上述の議論からは、モニタリング・システムはリスニング・ポジションで平坦なレスポンスを生むべきである、という結論が導き出されます。GENELEC モニターは無響室条件において平坦なレスポンスを持っています。モニターがリスニング・ルーム内に配置されると、そのレスポンスは変わりますが、内蔵のルーム・レスポンス・コントロールを使ってリスニング・ポイントでの平坦なレスポンスを回復させることができます。
このルールの例外の 1 つが映画業界で使われている X カーブです。映画館の再生システムは極めて大きい部屋(例えば 200〜800 人用の映画館)内に設置され、客席全体にわたる周波数特性は決して平坦にはなりません。ミックスが映画館で正確に再生されるようにするにはダビング・ステージはこのレスポンスを再現できなくてはなりません。なお、映画の DVD リリース向けのサウンドトラックは家庭環境内での再生用にフラットなレスポンスのモニタリング・システムでリミックスされます。
*)周波数の微細な差を聞き取る能力を持っていません。例えば、1000 Hz の信号と 1001 Hz の信号とを区別するのは極めて困難です。2 つの信号が同時に鳴らされている場合はこのことはさらに難しくなります。また、1000 Hz 信号は 1010 Hz や 1100 Hz や 990 Hz である信号を聞き取る人間の能力にも影響します。この概念は聴覚マスキング[Auditory Masking]として知られています。1000 Hz 信号が強い場合、この信号は近傍の周波数の信号をマスクしてリスナーには聞こえなくしてしまいます。マスクされた信号を聞こえるようにするには、その信号のパワーを、マスク音の周波数とその強度によって決まる閾値のレベルよりも大きくなるまで、高める必要があります。モニター・システムの周波数特性に関しては、このことはそのような周波数特性の強い不規則性(つまりかなりの凹凸)は近傍周波数のマスキングを、それゆえ音の再生の劣化を生み出すことになることを意味します。