デジタル・ソースを使用する
- DA コンバーターは制限要因となります
- DA の全ビットが使われる必要があります
- アナログ領域で信号をスケール・ダウンしてください
- モニタリングのためにはデジタル領域で信号を最大にしてください
- DA の最大出力をモニター・スピーカーのダイナミック・レンジにマッチさせてください
現代のフルデジタル・スタジオ内の制限要因はモニター・スピーカーにおける DA 変換です。GENELEC スピーカーは今日のどんな DA コンバーターで利用できるダイナミック・レンジよりも大きいダイナミック・レンジ能力を持っています。高ダイナミック・レンジのデジタル信号内のあらゆるディテールが確実に聞こえるように DA 変換は注意深く設定・調整される必要があります。DA 変換の誤用があると、信号のディテールが DA コンバーターのノイズに埋もれ、量子化歪が耳に付くために、エンジニアはモニタリング・システムの質が低いと非難するかも知れません。この資料は GENELEC アクティブ・モニター・スピーカーを使ってデジタル音声処理と再生システムを正しく設定して運用するためのガイドラインについてご説明しています。
ダイナミック・レンジ
スタジオの信号処理はどんどんデジタルに置き換わっており、デジタル・ミキシング・コンソールもますます一般的になってきています。そのため、デジタル世界とアナログ世界の究極的なボーダーラインはミキシング・コンソールからモニター・スピーカーへのインターフェイスにあると言えます。そこでは、デジタル・オーディオ信号が再生されるアナログ信号へと最終的に変わります。
D/A コンバーターはフルデジタル・システムの品質を高品質のスタジオ・モニター・スピーカーに伝える際の制限要因となります。デジタル・ミキシング・コンソールをアクティブ・モニター・スピーカーに接続する際の問題を解決するには、アナログ信号とデジタル信号の基本的な違いを考察する必要があります。
アナログ信号には実用上の最小値と最大値があります。低い方のリミットはオーディオ・システム内のノイズ・レベルであり、高い方のリミットはシステムの歪またはクリッピングのレベルです。アナログ・システムによってはクリッピングが生じるまで耳に付くような歪がないものもあります。また別のシステムでは、信号の有用な振幅を制限してしまう歪がゆっくりと増加します。
デジタル信号は数によって表現されます。通常、信号は固定小数点数によって表現されます。これは値の端数を表現できないことを意味します。信号には極めて明確な最小値ならびに明確な最大値が存在し、この範囲外の値を得ることはできません。
実際の例
デジタルの世界がアナログの世界と出会う場所ですのでダイナミック・レンジという概念は重要です。ダイナミック・レンジは信号表現の有用な値の範囲です。アナログ信号の場合、ダイナミック・レンジはノイズ・レベルや歪やクリッピングによって決定され、デジタル信号の場合は提供可能な信号の最大値と最小値によって決定されます。
実践的な例を見てみましょう。GENELEC の典型的な 2 ウェイ・アクティブ・スピーカーは、最も感じられやすい 3 〜 5 kHz の範囲内で 3 μVrms のノイズ・レベルを参照する入力を有します。最大入力信号レベルは 1 Vrms です。GENELEC 製品はデジタル・ソースに対して最高性能を発揮するように設計されていますので、最大入力信号レベルは歪という限度ではなく GENELEC スピーカー内のクリッピング・リミットによって決まります。このスピーカーのダイナミック・レンジは余裕の 130 dB となります。これは通常のどんなリスニング状況でもスピーカーのアンプ内で生じたノイズを聞こえなくするのに充分です。スピーカーは 1.4 V のピーク値を持つ信号を受け付けることができます。
デジタル・スタジオは一般的に音声を 24 ビット解像度で処理します。プラス電圧とマイナス電圧の両方を表現する必要がありますので、信号の値を表現するのに 23 ビットしか使用できません。最小値は 1 ビットを用いて表現されます。1 ビットを使うと 2 つの値(0 と 1)を表現でき、2 ビットを使うと 4 つの値(0、1、2、3)を表現できます。23 ビットを使うならば 8388608 個の値を表現できます。したがって 138 dB のデジタル・ダイナミック・レンジで信号を処理できます。
DA 変換
数値を電圧に変えようとすると実際の問題が始まります。この変換は DA コンバーターによって行われますが、DA コンバーターはデジタル世界とアナログ世界との間のインターフェイスですので、デジタル信号処理の問題のみならずアナログ信号処理の困難さもあります。
DA コンバーターにはアナログ・ノイズ・レベルがあります。これは DA コンバーターが生成することができる最低信号レベルを制限します。
信号レベルを低くすればするほどビットの使用量は少なくなります。これをデジタル・アッテネーションといいます(図 1 参照)。数ビットのみでごく小さい信号を表現する際、ほんのわずかな可能な信号値しか表現できません。これを量子化[quantization]といいます。少ないビット数を量子化する際はかなり大雑把に近似値を取っていることになります。この近似値は歪を生み出します。そして、信号をまだ聞き取れる程度まで電圧が落ちたときに、この歪は非常に邪魔になるものです。高品質のデジタル・オーディオ・システムは耳に聞こえるような量子化の効果を減らすために特別な手段を採用しています。
モニタリング DA コンバーターの重要性を強調しても強調しすぎることはありません──結局、ユーザーが自らの音声素材の品質を判断するのに使用するメインの機材はこれらのようなコンバーターなのですから。コンバーターの問題はあらゆることに反映されますので、原則として DA コンバーターは最高品質である必要があります。

図 1.デジタル・アッテネーションの効果。
ダイナミック・レンジをマッチングさせる
機材の性能を最大限に引き出すには、デジタルのダイナミック・レンジとアナログのダイナミック・レンジをできる限りマッチさせたいところです。
DA コンバーターが生成できる最大電圧をアクティブ・スピーカーが受容できる最大電圧とをマッチさせる必要があります。
これを行うには、まずフルスケール信号によって駆動されるときに DA コンバーターが生み出す最大電圧がいくらかを確認する必要があります──フルスケール・ポイントでのデジタル入力レベルを 0 dBFS とします。このチェックを行うには 1000 Hz デジタル正弦波信号を使います。この信号は大抵のテスト信号 CD に収録されています。モニター・スピーカーの電源を切り、テスト CD を再生し、正確な電圧計や高品質のマルチメーターを使ってモニター・スピーカーの入力での電圧のピーク値を測定してください。この電圧は、あるデジタルミキシング・コンソールでは +18 dBm つまり 6.2 ボルトになるとしましょう。
問題点はすぐに判ります。スピーカーは 1.4 ボルトの信号しか受け付けることができません。DA コンバーターは 6.2 ボルトを供給しています。使用可能な信号範囲の 4.8 ボルトを失っていることになります。これから 2 つのことが生じます。まず、DA コンバーターのところでデジタルのシステム・ダイナミック・レンジがアナログのシステム・ダイナミック・レンジとミスマッチになっているために、デジタル・システム内のノイズ・レベルは期待よりも高いように見えます。次に、1.4 ボルトのリミットを超える信号レベルでは音声信号はクリップします。
クリッピングを正すために音声技師はデジタル出力レベル・ポットを絞るかも知れません(図 2)。これは賢明ではありません。ここでの例で必要とされる減衰は 13 dB です。DA コンバーターでのノイズ電圧は変わりませんので、ノイズ・レベルは、そうあるべきよりもほぼ 13 dB 高いままの状態にとどまっているように見えます。DA コンバーターの出力電圧範囲がモニター・スピーカーの入力電圧範囲と一致しないために、全部で 26 dB の有用なダイナミック・レンジを失ったことになります。約 74 dB の有効なダイナミック・レンジだけで運用していることになるのに、高価なデジタル・コンソールは 13 ビット・システムの品質で動作します。これでは 24 ビット解像度のうちの 11 を失っていることになります。こんなことは受け入れられません。

図 2.デジタル領域での間違ったゲイン・マッチング。
正しいマッチング
デジタル・ミキシング・コンソールの出力電圧範囲は、ミキシング・コンソールとアクティブ・モニターとの間のアナログ減衰やゲイン・パディングを使うことで、アクティブ・モニター・スピーカーのダイナミック・レンジとマッチングさせる必要があります(図 3 参照)。
出力電圧が高すぎる場合は、ボルテージ・デバイダー・ネットワークを使ってアクティブ・モニター・スピーカーへの入力電圧を下げます。これも DA コンバーターの最低ノイズ電圧を同時に低減し、最大ダイナミック・レンジを保ちます。
実際は、あらゆる聴取状況に対して DA コンバーターのダイナミック・レンジを最適化するためには減衰がいくつか必要になるでしょう。低い出力レベルと高い出力レベルに対しては設定が異なることがあります。そのようなアナログのゲイン調整は実際はモニタリング出力 DA コンバーターの一部としてミキシング・コンソール内に置かれるべきです。

図 3.アナログのアッテネーターを用いた適正なゲイン・マッチング。
ゲインを高める必要がある場合は例外的な状況にあると言えます。まずゲイン調整を間違っておらず、出力ゲインを最大に設定してあることを確認し、再度測定を行ってください。モニター・スピーカーから最大出力を得るために必要な値よりも読みがまだ小さい場合は、極めて品質の高いゲイン段が必要です。このゲイン段でのノイズ・レベルは DA コンバーター及びモニター・スピーカーのノイズ・レベルよりも低くなくてはありません。このようなことはまずありえませんので、DA コンバーターの調整を間違っていないことをもう一度チェックしてください。
まとめ
GENELEC アクティブ・モニター・スピーカーは高品質のデジタル・システムと一緒に用いられるように設計されており、今日のスタジオ内のデジタル・オーディオ処理システムが提供できるのよりも良いダイナミック・レンジを備えています。GENELEC モニターを使えばデジタル・レコーディングが捉えたあらゆるものを確実に聴くことができます。DA コンバーター部でデジタル・システムとアナログ・システム両方のダイナミック・レンジを正しく合致させることだけには注意してください。