壁面にフラッシュ・マウントすると...

  • 回折を最小限に抑えられます
  • スピーカー背後からの反射がなくなります
  • スピーカーの出力がブーストされます
  • フロント・バッフル効果がなくなります
  • 低域の残響を抑える必要があります

半空間への組み込み

周りを囲まれたダイナミック・スピーカーのドライブ・ユニットが理論的に理想的な動作条件を持てるのは、その放射空間が全空間[full space](全球体放射)または半空間[half space](半球体放射)の場合のみです。理想的な全空間条件を実現するには、ドライブ・ユニットとエンクロージャーは放射される波長と較べて小さい必要があります。

実際には、スピーカー・キャビネットのフロント・バッフルの大きさは限られていますので、そして究極的にはドライブ・ユニット自身の大きさが有限ですので、高域の放射角度は減少します。例えば、フロント・バッフルの大きさが 300 × 500 mm の中規模のスピーカー・キャビネットは、200 〜 600 Hz の周波数範囲で、ドライブ・ユニットのローディング(上増し)が全空間特性から半空間特性へと変わります。

フロント・バッフルが生む半空間のローディングは理想からかけ離れたものです。バッフルのエッジはそこで音エネルギーが回折するために反射を生み出し、これらはスピーカー・システムの過渡音(トランジェント)レスポンスと指向性特性を劣化させます。

反射によって生じる周波数特性のディップ

実際のコントロール・ルームを考えてみますと、自立させた[free standing]スピーカーは反射を生じさせる壁によってつねに囲まれています。これらの壁はスピーカーの放射に対して音響的な鏡面として機能し、リスニング地点での反射音と直接音との間の位相差に応じて、直接音を重畳または相殺します。

低域での一番よくある問題はスピーカーの直接放射とスピーカー後方壁からの反射との間の干渉です。極めて低い周波数帯域では、この反射は直接音と同相になります。周波数が高まると、直接音と較べて反射音が進まなくてはならない距離の方が長いために、反射はどんどん減衰し始めます。

最終的には、何らかの周波数においては反射は直接音に対して逆相になるまで遅延されます。直接音と反射音の相対振幅によっては、周波数特性にキャンセレーションのディップ[落ち込み](通常は深さ 6 〜 20 dB)が生じます。

図 1.
図 1.壁からの音の反射。

このディップの周波数はスピーカーの壁からの距離で計算できます(図 1)。音は大気中を毎秒 344 メートルで進みます。壁からスピーカーまでの距離を音速で割ると音の到達時間を得ることができます。ディップの周波数はこの時間を 4 倍したものの逆数です(図 2)。

図 2。壁面での反射によって生じた周波数特性のディップ
図 2。壁面での反射によって生じた周波数特性のディップ。

ディップの周波数を移動する

この問題を克服するのには基本的に 2 つの方法があります。

第 1 の方法は一次干渉のディップをスピーカーの低いカットオフ周波数よりも下へ移動させるために、スピーカーを壁から充分に離して配置することです。このディップを 30 Hz まで下げるのに必要な距離は 2.8 メートルです。これは、単純にスペース不足のために大抵のコントロール・ルームで不可能でしょう。

第 2 の方法は直接音に対する反射の時間的な遅れを減らすために、スピーカーをできる限り壁に近づけることです。これは干渉問題を、スピーカー自身の指向性によって後方放射が減る高域周波数へと移動させ、このようにして直接音に対する反射音の振幅を効果的に弱めることができます。ドライブ・ユニットから壁への距離をゼロにすることで、スピーカーが壁にフラッシュ・マウントされた状況に到達します。これで、壁によって作られるスピーカー鏡映像は実際のスピーカー放射と完全に一体化されます。この「倍になった」スピーカー効果のおかげで、室内に放射されるトータルなサウンド・パワーは、スピーカーが単独で無指向性的に放射し、かなりの後方放射がある周波数において、自立させたスピーカーと較べて 6 dB まで高まります。

フラッシュ・マウントは回折を除去する

スピーカーを壁にフラッシュ・マウントすると、スピーカーのキャビネットのエッジからの不要な二次放射を除去することによって、また放射空間が半空間へとほぼ理想化されることによって、また別の重要な利点が得られます。この結果は回折効果の最小化であり、過渡音応答とイメージングの改善です。

フラッシュ・マウント用に最適化されたレスポンス

スピーカーを壁にフラッシュ・マウントする場合に考えておくべきことがいくつかあります。市販されている大半のシステムは平坦な自由空間レスポンスを提供するように設計されています。フラッシュ・マウントされると、スピーカーの周波数特性は平坦ではなくなり、普通は 200 Hz よりも下の領域で 4 〜 6 dB の低音のブーストが生じます。

スピーカーが低域シェルビング・コントロールを内蔵していない場合は、この問題を補正するために外付けイコライザーを使う必要が出てきます。パッシブなスピーカー・システムでは普通はこうなります。

スピーカーのフラッシュ・マウント方法

もう 1 つの重要な面は、スピーカー・キャビネットをキャビネットと部屋の壁の間に隙間や角を残さずに、前面壁から飛び出すことがないように正確に取り付けることです。

スピーカーを建物の構造に固定するのにスピーカー用に頑丈なコンクリートのベースを作ることを好む人々もいます。マウントに高い費用がかかる点を除いてこの方法は良好ですが、GENELEC ではフローティング・マウント方式の方が優れた点があることを見いだしました。

フローティング・マウント方式とは、スピーカーのキャビネットを、キャビネットの機械的振動を部屋の構造体から効率よく切り離すゴム製のばねの上に配置するものです。そうすれば、あらゆる音響放射は近傍の壁や床や天井からではなく実際にスピーカーから来るようになります。

間違ったフラッシュ・マウントと正しいフラッシュ・マウント
図 3.スピーカーを壁面に正しくフラッシュ・マウントする。

Flush mounting details
図 4.フラッシュ・マウント構造の詳細。

ルーム・モードと戦う

ドライブ・ユニットが壁面の中にあるフラッシュ・マウント・システムでは、他のスピーカー配置の場合よりも、室内の定在波は励振される可能性があります。定在波を効果的に励振するには、定在波の圧力が最大になる点に圧力源を置くことが必要です。定在波はどの残響周波数でも壁の表面において圧力が最大になります。回りを囲まれたダイナミック・スピーカーは圧力源のように機能し、壁面にフラッシュ・マウントすることによって、長手方向のあらゆる定在波モードを励振します。

この問題を克服する唯一の有効な方法はコントロール・ルームの背面壁を吸音素材を使って低域を強くダンプすることです。この目的には他の方法は効果的でないことが経験的にわかっています。

スタジオのレイアウト
図 5.低域のルーム・モードのダンピング。

まとめ

正しく設計されたフラッシュ・マウント・スピーカー・システムは再生経路にあるいくつかの問題の根源を除去し、絶対的に正確で偽りのない音再生というゴールへの到達を支援します。フラッシュ・マウントは回折を最小限に抑え、スピーカー背後壁からの反射を除去し、スピーカー出力をブーストし、フロント・バッフル効果を取り除きます。スピーカーの適切なフラッシュ・マウントならびにコントロール・ルームの背面壁の適切なダンピングを行う必要があります。