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Loudness Metering White Paper

テレビのチャンネルをザッピングするときに音量を再調整するのは残念ながら当たり前かつ必然的なことになってしまいました。似たような音量差はコマーシャルの冒頭でも頻繁に感じられます。当然のことながら視聴者はテレビ放送でのこのようなバラツキについて繰り返し不満を述べてきました。このような音量差は多数の要因によって引き起こされますが,共通の分母は 1 つです:ラウドネス知覚という主観的なパラメーターを客観的かつ正確に測定する解決策が今日まで存在していなかったのです。音声制作で現在使われている測定機器はラウドネスという主観的パラメーターの判定を行えません。むしろ,そのような機材はある音声信号のピーク電圧を示すように設計されていますので,ラウドネス判定を不可能にしています。QPPM(準ピーク・プログラム・メーター)は放送局の世界ではごく一般的に使われていますが,10 ms という積分時間(ARD 仕様 [Pf3/6] 参照)が伴いますので QPPM は真のピークを表示できません。それでもデジタル信号を含む作業には真のピークを検出することは不可欠です。


オーディオ界でのパラダイム・シフト
このようなラウドネス問題を解決することを考え始める前に,まず音声レベルを観測する方法を抜本的に変える必要があります。これには,現在実践されているピーク判定から一定のラウドネス測定まで,あらゆることが含まれます。EBU のワーキンググループ「P/LOUD」の座長 Florian Camerer 氏はピーク・ノーマライゼーション(ピーク・レベルによる音声平準化)からラウドネス・ノーマライゼーションへの移行をオーディオ界における根本的な変革であると述べています:「ラウドネス・ノーマライゼーションは真の音声平準化革命です」(Camerer,2010)。

図 1 は 2 つの音声平準化パラダイムを並べて示すものです。ピーク・ノーマライゼーションを見てみるとピーク・レベルが一様でもラウドネスが変動し得ることがすぐに分かります。ラウドネスによる音声平準化ではピーク・レベルが変動することになります。しかし,目標は番組全長にわたってラウドネスを一定に保つことです。このことはある 1 つの番組内でのラウドネスの差を許さないということを意味しません。統合された 1 つの測定で決定される番組全体のラウドネス値が決め手なのです。音声信号を作るときに関してはラウドネスとラウドネスの変化は創造的なツールです。ラウドネス・ノーマライゼーションがあれば,この有用なツールをさらにダイナミックかつ大量に使用することができます。

以前は超えてはいけない何らかのピーク値(放送では普通 -9 dBFS)を定めて作業するのが一般的でした。そのピーク値よりも上のものはピーク・リミッターによって阻止され,それが音質を劣化させていました。ラウドネス値による音声平準化は「操り人形を意のままに動かす」ことになぞらえることができるでしょう。



図 1:音声平準化パラダイムの一対比較(Camerer,2010)

長年,ラウドネス音声平準化というコンセプトの普及の妨げとなっていたものの 1 つが,ラウドネスを測定するための国際標準の欠如でした。最近,主観的パラメーターであるラウドネスを測定する方法がいくつか開発されましたが,どれも国際的に定着することができませんでした。しかし,この状況は変わりました:2006 年以来,国際的に受け容れられた測定方法が存在します。この進展はこの話題についてオーディオ業界内で議論が活発になったことと軌を一にします。すでに 2002 年に,ITU(国際電気通信連合)は標準が存在しないという問題を認識し,この問題を扱う特別委員会を設けました。この委員会はデジタル制作におけるメーター表示方法に必要な特性を収集するためのものでした。この文脈では,それを用いて主観的なラウドネスのための信頼できる指標を確立できるような手順を作ることを意図していました。できあがった手順は独占的なシステムではなくオープン・スタンダードです。

ITU-R BS.1770 —— 新たなラウドネス運動の基盤
ITU-R BS.1770 の公開によって,主観的パラメーターであるラウドネスの,客観的な測定値を用いた判定のための国際的な規格が,初めて存在することになりました。ラウドネス・メータリングのためのアルゴリズムは 2 つの特定の重み付けフィルターの平均に等しいエネルギー(Leq)測定から成りますが,この 2 つのフィルター・カーブの組み合わせを「K-Weighting」と呼びます。「Programme Loudness」は個々のチャンネルの電圧の総和によって決まります。この場合,サラウンド・チャンネルは 1.41 因数(≈ +1.5 dB)だけ高く評定されます。背後から来る音は前から来る音よりも大きく聞こえますので,この理由は進化しているといえます。このアルゴリズムはレベルが 0 dBFS のステレオの 1 kHz 正弦波信号が 0 LKFS のラウドネス値となることを保証します。ITU アルゴリズム [BS.1770] はラウドネス値を LKFS(loudness k-weighted related to full scale)という単位で示します。図 2 はマルチチャンネル信号の場合のアルゴリズムの構成を示すものです。5.1 信号の場合,LFE チャンネルは測定に含まれません。



図 2:ITU-R BS.1770-2 に基づくラウドネス・アルゴリズムのフローチャート

ITU アルゴリズムの第 2 版(ITU-R BS.1770-2)はいわゆるゲーティング方法を必要とします。この場合,絶対ゲートと相対ゲートとの間の差が必要です。絶対ゲートは -70 LUFS に設定され,その目的は実際には聞こえない信号が測定に影響を与えるのを防止することにあります。相対ゲートはゲートのない測定の -10 LU 下に設定され,その目的は長い無音イベントが測定を歪ませるのを防止することにあります。相対ゲートを用いることによって,ゲートなしで,ある長期測定時間にわたって -10 LU 以下であるレベル(400 ミリ秒の時間枠で測定された)は計算から除外されます。

ラウドネス・メータリングの方法以外に,[BS.1770] はデジタル・オーディオ信号のピーク・レベルの推奨測定方法も記述しています。一般的なピーク・メーターは「真の」ピーク値を表示できません。サンプル・ピーク・メーターの精度は実際のサンプルによって制約を受けます。サンプリング・ポイント内で生じたことは音声の平準化表示では隠れたままです。信号にいわゆる「Inter Sample Peaks」(サンプル値間ピーク)があると,後続の信号処理が歪を発生するかも知れません。これらのようなピーク値を識別するために,信号の 4 倍オーバーサンプリング後にいわゆる「True Peak Meter Peak Values」が表示されます。

ITU 規格は EBU のような多国籍機関によって採用され,放送における使用のための規格と勧告が確立されました。これらのような規格に基づいて,放送での ITU-R BS.1770 に準拠したラウドネス測定の使用のために指針が作られました。

EBU R128 及び ATSC A/85 による規格化
75 の放送局からなる協会である EBU(欧州放送連盟)は ITU 規格を採用し,放送におけるその一様な使用のための指針を作りました。ドイツの公共テレビ局である ARD と ZDF は EBU 指針が提唱するとおりにラウドネス・ノーマライゼーションに従う運用規則を 2011 年末までに実現することを計画しています(Eberhard,2011)。ITU 規格は 2010 年の南アフリカ・サッカー・ワールドカップの国際音声(ラウドネスに基づくミキシング)に初めて適用されました(Krückels,2010)。現在では,オーディオ・ハードウェア及びメータリング機材のメーカーの大半は ITU 規格と EBU 勧告の両方を組み込んでいます。

2008 年に,放送用途への ITU の方法を吟味し,また放送局での標準化された用途が行えるような仕様を作るという目標を掲げて EBU は「P/LOUD」という名前の作業部会を結成しました。このチームは実施のための指針として放送局に役立つようなドキュメントの作成という任務を負っていました。ここで基盤は EBU 勧告 [R128] にあります。新たな方法の実装方法の詳細は 4 つの追加ドキュメントで解説されています。[R128] では将来音声信号を記述するのに使用される 3 つの新たなるパラメーターが定義されています:

Programme Loudness:「Programme Loudness」パラメーターは [BS.1770] による信号のメーター表示に由来します。これは番組全体の長さをカバーする長期的な計測です。特定のターゲット・レベルは -23.0 LUFS に決められています。将来,これはヨーロッパのテレビ番組の目標値となります。

Loudness Range:「Loudness Range」は,ある 1 番組内でのラウドネス値の分布を記述する静的なパラメーターで,ある 1 番組のダイナミック・レンジを説明することも可能にします。Loudness Range はプログラムごとに異なる可能性があり,番組内容によって決まります。このため EBU はこのパラメーターについて特定の値を定めていません。Loudness Range 内の信号は適切なダイナミック処理を用いれば別の再生状況にも適合できます。関連アルゴリズムは EBU ドキュメント [Tech3342] に記載されています。

Maximum True Peak Level:「Maximum True Peak Level」は信号の新たな技術的な上限となります。これは 1 dBTP(decibel true peak)に設定されました。この値は PCM 音声の番組に適用されます。信号をアナログ伝送する,あるいはロッシーな(損失のある)符号化が必要な場合には低めの「Max. True Peak Level」が必要です。別の「Max. True Peak Level」についてのもっと詳しい情報については配給の指針 [Tech3344] をご覧ください。

類似する測定が可能になるパラメーターを提供する EBU ドキュメント [Tech3341] はいわゆる「EBU Mode」について記述しています。EBU モードではラウドネスを測定するために異なる時間的尺度を持つ 3 つのモードが定められました:

モメンタリー・モードとショートターム・モードは信号の現在のラウドネスを監視するのに適し,ラウドネスに基づいて信号を均すのに使用できます。インテグレイテッド・モード(平均モード)は番組全体のラウドネスについての情報を提供する,スタート,ポーズ,リセットの各パラメーターを有する長期的な計測です。

絶対単位は [BS.1770] に述べられているものとは異なります。これは「LKFS」という単位を持つ絶対値です。EBU は国際的な命名習慣に従って「LUFS」を絶対値の単位に定めました。ラウドネスの単位は小数第 1 位を使って指定され,次のように定義されます:

absolute: Lk = xx.x LUFS

relative: Lk = xx.x LU

0.0 LU という相対値は EBU モードでの -23.0 LUFS というターゲット・レベルと等しくなります。例えば,ラウドネス・メータリングの結果は数値でのみ定義されます。ラウドネス・メータリングの結果がバーグラフで表示される場合,EBU は目盛りの範囲を指定しました。EBU モードで動作する測定装置は切り替えできる目盛りを 2 つ持つ必要があります(図 3 参照)。



図 3:EBU ラウドネス目盛りの略図(Camerer,2010)

EBU ドキュメント [Tech3343] の「Practical Guidelines」のセクションはこの新しい方法の実践的な使用方法やラウドネス・メータリング機材の使い方についてのヒントも含んでいます。

米国では ATSC A/85 が適用される勧告です。いわゆる「Calm-Act」が可決されていますので,今ではこれが法律に組み込まれています。ATSC(Advanced Television Systems Committee)によって公開された勧告 [A/85] が放送分野でのラウドネスに関連する包括的な指針で,これはメタデータの適切な使用方法や最適モニタリング条件のような豊富な付加情報も含んでいます。一般的に,[A/85] は ITU アルゴリズムを変更なしに使うことを推奨しています。EBU [R128] とは違って特定のタイム・ウインドウは定義されていません。[BS.1770] との互換性を有する機材を用いることだけが推奨されています。ターゲット・レベルが -24 LKFS に設定された状態では許容誤差は ±2 で,「Max. True Peak Level」は -2 dBTP と表現されます。いわゆる「Calm-Act」(Commercial Advertisement Loudness Migration Act[直訳:商業広告ラウドネス緩和法])は 2010 年 12 月に発効しました。ATSC [A/85] を技術的な基盤として用いたこの法令はテレビ放送でのラウドネスのジャンプを法的に禁止しています(CBS Interactive Staff,2010)。

ミキシング・コンソールでのラウドネス・メータリング
LAWO 社は『mc²』シリーズの量産機でミキシング・コンソールに初めてラウドネス・メータリングを導入しました。製品開発時の科学的研究からは,ラウドネス・メータリングは古典的なピーク・メーターに置き換わることができないことが明らかになりました。むしろ,これらの 2 つのツールは互いに補い合っています。

やはり,ラウドネス・メータリングはファイナル・ミックスに限られるべきではなく,むしろ,いつでも利用できるツールになるべきです。まさにこの理由のため,LAWO 社は個々のミキシング・コンソール・チャンネルにラウドネス・メータリングを導入してきました。このアプローチはラウドネス値に基づく単純な制御を超え,サウンド・エンジニアに,どんな状況においても日々のワークフローだけではなく耳もサポートする便利なツールを提供します。そのラウドネス・メータリングを使えばラウドネス問題を把握できるだけではなく,次のような他の多くの状況もサポートできます:

チャンネル・ベースのラウドネス・メータリングあるはそれを真のピーク・メーターと組み合わせたものによって,デジタル・ミキシング・コンソールのために新たな制御基準を作ることができます。新たな制御基準への大規模な切り替えは多大なる個人的訓練を必要とするでしょう。しかし,ミキシング・コンソール・システムに直接組み込むことはオーディオ界全体にわたるこの包括的な変化の支援と確立に寄与することになります。


規格・仕様・規準

引用文献